定年後の選択肢として、誰でも一度は考えるのが「気楽なマンション暮らし」である。カギ一つで戸締り完了。気苦労の多い近所づき合いもなければ、庭の手入れも必要ない。最新設備も防犯システムも整っている。立地や交通の便がよければ、買い物にも外出するにも困らない。というわけで、定年を迎えた夫婦に大人気なのが都心の新築マンションだ。東京品川区や中央区、江東区の臨海地域、いわゆる「ウォーターフロント」に続々と建設される高層マンション需要を支えているのは、ここ数年はもっぱら熟年夫婦たちである。
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都心の新築高層マンションともなれば、価格もそれなりに高い。一億円を超す豪華物件も珍しくはない。退職して定期収入を失った元サラリーマンに、どうしてそんな買い物ができるのだろうか。典型的なパターンをご紹介しよう。あるご夫婦は、長年、世田谷区内の高級住宅地にある土地付き一戸建ての家に住んでいた。しかし、個室だけで五部屋もあるその家は二人暮らしには広すぎたし、築三十年を過ぎて老朽化も進んでいた。虎の子の退職金をはたいて建て替えるか。いっそ二世帯住宅にして息子夫婦と一緒に住むか。いろいろ考えてはみたが、息子夫婦は同居にあまり気乗りしない様子だし、自分たちも今さら若い家族と一緒に住んで神経をすり減らすのはいやだった。結局、世田谷の家と土地を売り、便利なマンションを買うことにした。